前回は【しゃくり】とは一体どんなものか?を音源や譜面を使って説明しました。普段あなたが聴いているお気に入りの楽曲の中にも「しゃくり」は入っています。発見できましたか?
【しゃくり】は歌の節のひとつであり、ポップスなどには自然な形で入っているものです。最近某テレビ番組で話題の【カラオケDAM:精密採点DX】。このコンテンツの中でも頻繁に使われる用語です。
では今回は、しゃくりを実際に使う場合の技術的なポイント(歌唱テクニック)を解説してみたいと思います。
【しゃくり】に大事な3つの要素
【しゃくり】を使うことで、メロディに表情がつきます。
女性で言うとメイクのようなもの、スッピンから少しづつ色を加えて、いつもと違う表情を演出する感覚に似ています。メイクの度合いによって見え方も変わって来ますね。
歌における【しゃくり】でも同じ様なことが言えます。
とは言っても、【しゃくり】のないストレートな歌にだって、純粋な良さがあります。一方で、【しゃくり】など節を加えた歌にも表情豊かに胸を打つ良さがあります。どちらが正しいということではありません。
豊かな表情を生み出す【しゃくり】には大事な3大要素があります。
- 【しゃくり】3要素
- 1. しゃくりを入れる場所
2. しゃくり上げるスピード
3. しゃくり上げる音程の幅
今回はみなさん良くご存知の童謡「春よ来い」を使った音源で説明して行きましょう。
1. しゃくりを入れる場所
「しゃくりを入れる場所」に特に決まりはありません。自分で入れたい部分に入れてOKです。ですが、一般的に言うと、
- ・フレーズの始まりの音
- ・フレーズの終わりの音
で使われる事が多い傾向にあります。
音源を使って説明すると以下の様な感じです。歌って実演してみます。
【しゃくり】を入れた歌「春よ来い」
DAM精密採点DXのマークを少し真似て、赤いチェックマークがしゃくり部分です。
フレーズの最初は歌い出しですので、シャクリが入れやすい場所でもあります。また、最後の音符が長い場合も入れやすい傾向にあります。
曲のテンポによりますが、あまり細かい音符(例えば16部音符が沢山続く様なフレーズ)にはつけづらいでしょう。
フレーズ全体に【しゃくり】が入る歌「故郷」
また、この様にフレーズ全体に入る様な事もあります。
「どこで入れるか?」と言うセオリーはありません。独自の感性で入れて、それがハマればアナタの個性にもなります。
2. しゃくり上げるスピード
これは大きく言うと2つに別れます。
- A.ゆっくりとしゃくる
- B.早くしゃくる
Aの場合は、以下の様な感じになります。
A. ゆっくりとしゃくる歌「春よ来い」
どうでしょうか?まったりとしていますね、ゆっくり引きずるようにしゃくることで、テンポ感もわずかに遅目に聞こえるかもしれません。どちらかというと、アダルトでアンニュイな雰囲気になりますね。
ではBの場合はどうでしょうか?
B. 早くしゃくる歌「春よ来い」
こちらは打って変わって、割りと自然に聴こえますが、Aに比べると小気味良く、歯切れよく聴こえると思います。
ソウルを歌う方などは、速いスピードのしゃくりを多様される方が多くおります。
しゃくり上げる音程の幅
これはつまり、どの音程からしゃくり上げるか?と言うことです。始まりの音程をどのへんに設定するかによって、聴こえ方が全然違って聴こえます。
これも大きく分けると2種類あります。
- A.メロディより1音下からしゃくる
- B.メロディよりもっと下の音程からしゃくる
A. メロディの1音下からしゃくる歌「春よ来い」
Aは、最初の音源と同じで、ほぼスタンダードなしゃくりのパターンです。
歌うべきメロディの1音下からしゃくり上げると非常に自然なしゃくりになります。基本的にはこのパターンを修得するのが良いでしょう。
では、Bはどうでしょうか?
B. メロディよりかなり下からしゃくる歌_「春よ来い」
メロディより5音ぐらい下の音から上がる、もしくは、それよりもっと下で自分の音域の最低音からしゃくり上げたりするパターンです。
こちらはカナリ個性的です。演歌やビジュアル系バンドの歌などにも聴かれます。
このパターンは、声帯を閉じて行う【ボーカルフライ】などを併用した技術でもあります。
※【ボーカルフライ】に関しても、また別の機会に記事を書きたいと思います。
同じメロディでも、【しゃくり】の入れ方ひとつで様々な表現になります。それぞれの「違い」は、一度聴くだけでは分かりづらいかもしれませんが、そのくらい細かいフレーズの積み重ねで歌は出来ているのです。
「春よ来い」のピアノ伴奏も置いておきますのでご自分でも実践してみてください。
細かいテクニックを書きましたので、すぐには実践できないかもしれません。そんな方は、やはりボイストレーニングなどで歌のスキルを上げていくことが重要です。
逆にこれらのバリエーションを実践でコントロール出来る方は、かなりテクニックをお持ちの方です。そういう方は、他の曲でも試してみてください。それがアナタの感覚を磨く事になります。
今回書いた、3つの要素の組み合わせで、様々なタイプのしゃくりを表現出来ます。これは、それぞれの歌の個性につながります。また、このスキルを身につけると表現の幅が格段に広がります。
次回は、「しゃくりに関する注意点や落とし穴」に関して、その後は「上手くなるための具体的なトレーニング方法」についても書いてみたいと思います。